学ぶ保険 企業を守るベストアドバイス 第10回(全12回)
顧問先企業の保険を見直す
税理士新聞 2006年9月5日 掲載記事
中小企業の多くは、リスクマネジメントをほとんど実施しないで保険に加入しています。しかし保険は本来企業リスクを正確に把握し、その上で加入すべきものです。そこで、保険加入前に実施したいリスクマネジメント手法を紹介します。
リスクに優先順位付け
中小企業で問題になるのは、リスクマネジメントをほとんど実施しないで保険にすすめられるまま加入しているということです。企業のリスクを正確に把握して、その上で保険に加入すべきです。
その中で最も重要なことはリスクの優先順位付けを行うことです。限られた予算の中で効率的に行わなければ意味がありません。保険料の負担に限りがあることと保険料が増えれば企業の経営効率が落ちるからです。
リスクの評価と手順
まず、リスクについて事故の発生頻度を縦軸に、一回一回の損害の大きさを横軸として、 大きくリスクを四分野に分ける作業をおこないます。
<図1 /リスクの評価と手順 >

A領域
めったに起こらない事故や災害だが一度起こると経営の屋台骨を揺るがすような巨額の損害リスク
B領域
ちょくちょく事故は起こるが一回一回の損害は小額
C領域
ちょくちょく起き一回一回の損害も巨額、このようなケースは企業として成り立たない事業なので現実的にはない
評価の手順
- 企業にとって最大のリスクを考える
- 損害の発生頻度と損害の大きさを考え各領域に振分ける
- 自社の体力内で対応できるものをB領域とする
→ ※現金でカバーできないか? - 自社の体力内で対応できないものをA領域とする
→ ※一度ダメージを受けると危機に陥る
まず、図のうちでは A領域を優先していくことがリスクマネジメントの基本です。
なぜなら、A領域の事故が一度でも発生してしまった場合、企業の経営の屋台骨を揺るがしかねないものであるからです。
ところが、中小企業の保険内容を現状分析していくと、ほとんどのケースでA領域については補償が不完全なままです。一方、無駄な多くの保険料を払っているというのが実態なのです。B領域は現金で置き換えることが出来ないかを検討できます。一方、A領域では事故の頻度は少ないが規模が大きいので、保険の活用(リスクの移転)が有効です。B領域の保険料を少しカットしてA領域に振り分けるだけでも企業の保険は良くなります。
例えば、人的リスクの場合、B領域とは、労災事故でいうと小さいケガのうちで入院や通院の日数が短いもので、A領域とは、死亡事故や重度の後遺症です。
多くの中小企業では福利厚生の意味を含めて、入院、通院といったB領域にあたる分野に、社員を対象とし、傷害保険などを付保し、多額の保険料を投入しているケースがあります。 事故頻度が多いので入院や通院のリスクのほうが理解しやすいので多く加入しています。
ところが、労災事故における休業リスクは、そもそも労災保険でカバーされていますので、入院・通院といったB領域を現金で置き換えることができないか検討すべきです。
労災事故での治療費は全額、公的保険で補償されているのです。入院したときの所得補償は原則無制限、期間の限定がなく給料が8割補償されるのです。非課税です。ところが、入院したときための傷害保険を重複して付保しています。これは比較的充実している分野についてどんどん保険を掛けているという典型的な例です。
もしやるにしても、差額の2割だけ保険を掛けておけばいいわけです。そうすると、日額が1万円の方ですと、2,000円か1,000円でいいわけですから、月給30万円の方で1,000円くらい保険を掛けておけばいいいうことですが、まさにこれがB領域の際たる例ということなのです。
ところが、従業員の死亡や重度後遺症の時はどうでしょうか?
たとえば30代の方で子供がいたりすると、賠償額は一億円くらいの補償額になる可能性があります。政府労災で1000日分が訴訟額から控除されますが会社側が負けるケースが多いのです。この対策として使用者賠償責任保険があり、最大リスク、例えば1名1億円や1事故10億円という金額を設計して付保します。保険料は、一般的な業種で、50名の場合、年間2〜30万ぐらいです。
下表に多くの企業で見落とされている代表的なA領域や、見直しを図るべきB領域(主に現金化または保険付保不要)をまとめてみましたので、参考にして下さい。
| リスク区分 | A領域 | B領域 |
|---|---|---|
| 資産リスク | 財物に対するオールリスク化 地震・水彩リスクへの対応 |
高額自己負担(免責)を設定する |
| 賠償責任リスク | 巨大リスクへの対応 (補償限度額上限アップ) 新リスクに対応できているか |
事故頻度の多いリスクは保険を活用しない |
| 利益確保 | 利益保険のオールリスク化 (地震時対応含む) 取引先の売掛債権 |
高額自己負担(免責)を設定することにより保険料の逓減が図れているか |
| 人的リスク | 使用者賠償責任の検討 長期療養リスク |
医療保険・傷害保険の入通院補償・総合福祉団体定期・養老保険の見直し・公的保険と重複していないか |
| 自動車リスク | 対物間接損害 (損害の巨大化) 対物賠償の無制限化 |
人的傷害と搭乗者傷害保険の見直し 車両保険と対物賠償で高額自己負担 |
(次回につづく)
橋本 卓也
保険サービスシステム株式会社
代表取締役
